キーパッド

キーパッド

標準配列キーパッドは視覚障害者にとって極めて重要である.現在,数字キーに関しては電話式配列と電卓式配列という2種類のよく知られた配列がある.公衆用端末機には,ここに示す電話式配列のキーパッドのみ用いることが推奨されている.

数字キーとコマンドキー

弱視者はいくつかの数字の読み取りが困難である. 先端が開いた形状の数字群を含む活字書体を使うことが重要である. 活字の利用法に関する詳細は22頁 (訳注:「活字書体と視認性」の章) を参照されたい.
全盲の人達のために「5」のキーに盛り上がった突起を一つ付けなければならない. この突起は視認性を損ねない位置に付けなければならない.

コマンドキー (訳注:特定の機能を選択するためのキーで, 後述する「機能キー」とほぼ同義)を縦に配置する場合, 「取消」キーは一番上, 「入力」キーは一番下にしなければならない.

コマンドキーの位置は数字キーの右にすることが望ましい. そうすれば, 数値入力時に意図せずに接触する心配が減らせるだろう.

〔本頁全図について CANCEL,CLEAR,ENTER はそれぞれ「取消」「クリア」「入力」とする〕

キーの視覚的標識は縦4mm以上の文字で, しかもキーの色と良好なコントラストを持つものでなければならない.(例, つや消し処理した黒いキーに白い文字).

すべてのキーやボタンは触覚的に識別できなければならない. 各キーは少なくとも2mm以上盛り上げるか,窪ませなければならない.

色によるキーの意味付けは,以下のようにしなければならない.

  赤色:取消
  黄色:クリアまたは訂正
  緑色:入力または処理続行

各キーの縁と縁の間は少なくとも 2.5mm以上離さなければならない.

機能キーと数字キーとは明確に分離しなければならない.

コマンドキーを横に配置する場合, 「取消」キーは一番左,「入力」キーは一番右にしなければならない. コマンドキーを数字キーの下に配置する理由は, 視覚障害者が数字キーを押す際に間違ってコマンドキーを押すという問題を引き起こしがちだからである.

左の図に示す例ではコマンドキーの幅が狭いので, キーの上には小さな文字でしか単語が表示できない. キー上の単語をもっと大きく読み易いものにするため, キーはできるだけ大きくしなければならない.

フィードバックの強調

キーの形状による識別(訳注:原文はshaped keys)

赤緑色盲者は珍しくないので, 各キーを識別する唯一の手がかりに色を用いてはならない.できれば, 各キーは異なった形を持ち, かつ, 記号で識別できるようにしなければならない.

〔左欄図中の文字〕取消/クリア/入力

照明

理想としては, キーパッドからの入力待機中は,各キーを内部から照明することが望ましい.



キーが押されたことをブザー音やコツコツというクリック音によってフィードバックすることは多くの人の役に立つ.

触覚的フィードバック

キーの反発力は作動させるのに必要な力に達するまでは徐々に増大し,急に減少した後,衝撃吸収作用が一旦なくなって, また増大するので, 触覚的にキーの操作状況が分かる.

時間的余裕

多くの高齢者や認知障害者は機械に急かされたり, あるいは「時間切れ」になるかもしれないと考えることを好まない. 従って, こうした人達には, 自分自身のペースで端末機を利用することを容認する必要がある. この要望事項は利用者カードに記録することがおそらく可能であろう.

音声入力

ある状況下ではコマンドの音声入力が一つの選択肢となる. 音声入力を選択可能にした場合, 利用者はキーボード入力か音声入力のいずれかを選択しなければならない. 手が使えない人や知的障害者は音声入力を好むであろうが, 発声発語が困難な人はキーボードの方がおそらく使い易いであろう.

個人識別番号に関する問題

個人識別番号 (原文はPersonal Identification Numbers)(PINs)は失読症患者や認知障害者に特有の問題である. いくつかの選択肢の中から自分自身の番号を選ぶことはできるが,4桁の数字からなる個人識別番号を確実に記憶して利用することは難かしいという程度の失読症患者がヨーロッパには2500万人以上いる. 知的障害者の最大の問題は番号の秘密保持である. それゆえに, 失読症患者や知的障害者の個人識別に関しては生体計測法の選択が有利と思われる.(例, 指紋).

個人識別に生体計測法を用いる場合には, 必ず,別の方法 (例えば, 個人識別番号入力)も選択できるようにしておくことが不可欠である. その理由は,どんな生体計測システムにも, 利用不可能な障害者グループが存在するためである (例えば, 指紋による利用者識別には指の存在が不可欠である) .

決して, 利用者の個人識別番号を表示や印字あるいは放送してはならない. しかし,数字が入力されたことを示すための音響的あるいは視覚的フィードバック (例えば, 画面上に×を表示したり, クリック音を出す) は共に有用であろう.

〔中央欄図中の文章〕   貴方の個人識別番号を入力してください   ××××
             貴方が入力した数字は妥当です □
             お待ちください

軽度ではあっても, 記憶障害を持つ多くの人達は, 自分の個人識別番号を思い出してテキパキと入力することが難かしい. そんな人達には, 時間切れになるまでの時間を長めに設定することが有用であろう.

Kenji Horiuchi