活字書体と視認性

活字書体と視認性

視認性に関する適切な規格は全ての利用者に役立つが, 多くの弱視者にとってはその端末機が使えるかどうかを決定する切実な要件である.

活字の大きさ

殆どの弱視者にとって,大きな活字は視認性を著しく向上させる. 弱視者のために16ポイント以上の活字を使うことが推奨されている.

16ポイントのメディアムウェイト活字の印字例.
16ポイントのボールドウェイト活字の印字例.

(訳注:12頁に書いたように, 同じ16ポイントでも邦文書体は欧文書体より大きい).

活字の太さ

活字の太さは大変重要で視認性を左右する. 細い書体は避けなければならない. 標準的な太さの活字も時には充分な視認性が得られないので,視認性が最も高いとされるメディアムやボールドの書体が推奨されている.

エキストラボールド活字は文字中央の空白部が小さくなりぼやけて見える弱視者もいるので推奨できない.

コントラスト

活字とその背景とのコントラストは視認性に影響する重要な要素である.

反転文字

黒あるいは暗い背景上の白あるいは黄色の活字は活字の太さや大きさが適切であれば視認性がより高い. 小さい活字や太すぎる活字は視認能力が低下した人には不鮮明になりがちである.

〔反転文字の印刷例,右端のぼけに注意〕

小さな活字は反転すると不鮮明になりがちである.
薄い色や背景に近い色調は避けなければならない.
活字を写真や挿絵の上に配置してはならない. そうすると, コントラストが低下し見ずらくなる.

〔右欄下の写真中の文字〕    車両登録
                ■ 乗用車
                ■ 自動2輪
                ■ 商用車

大文字の利用

数語程度なら大文字だけでも深刻な事態にはならないが, 全て大文字にするより大文字と小文字を混在さする方が読み易い.

〔大文字のみの印刷例−英文の下に和文を置く〕

全て大文字という文章は避けなければならない.

書体の形状

普通に使われている殆どの書体は視認性が高い. 多くの弱視者にとっては書体の選択よりもコントラストや大きさ, 太さのほうが重要である. とっぴな書体や輪郭が不明確な書体は避けなければならない.

〔長体の印刷例−英文の下に和文を置く〕

長体(訳注:縦長書体)も避けなければならない.

最近,全英盲人協会はテレビの字幕 (原文はsubtitle)の視認性を高めるためにデザインしたテイレシアス(訳注:ギリシア神話に登場する盲目の予言者) と名付けた書体開発に資金を投じた. この書体についての詳細は以下のワールドワイドウェブを参照されたい.

(http://www.eyecue.co.uk/tiresias).

例として挙げたテイレシアスの開発作業は読み易い数字をデザインするためのものであった. 3,5,6,8,9 の各数字は端が巻き込まれているために不鮮明に見えたり形を混同しがちで,多くの弱視者が間違って読む可能性が高い (下図の先頭行が間違い易い書体の例である).

端がより「開いて」いる形状の書体を選択すれば画面上での視認性を高めるのに役立つ.

〔左欄下の活字書体名〕 ヘルベチカボールド/ギルサンボールド/タイムスボールド/テイレシアスサブタイトリング

文字間隔と行の長さ

ビッシリ詰まった大量の活字は読み手の気力を萎えさせる. 行間はなるべく広くしなければならない. 画面に単語を表示する際には 印刷物よりやや広めの間隔で均等に配置しなければならない.

行の右端 (原文:right hand margins) は不揃いのままにしておいた方が弱視者は助かる.行末の単語を2行に分割することは避けなければならない (訳注:分割せざるをえない単語は次行に送る).

活字だけの欄の横幅は,読み易さに影響する重要な要素である. この幅が広過ぎると次行の先頭に目を戻すのが難しくなる. 文章を連続して画面表示する際には, 各行8語以内にすることが推奨されている.

割り付け (原文:layout)

■ 黒四角 (原文はbullet points)の採用や表題の分割,関連が薄い章の分離などの手法をうまく利用すれば読み易くなるであろう.

■ 2段以上の段組にする場合, 各段の間 (原文:margins)は充分広くとらなければならない. スペースに余裕が無い場合には縦に並べる原則(原文:vertical rule)が役に立つ.

■ 画面上を移動する文章は, 軽度の視覚障害者ですら非常に読みにくいので, このような手法は避けなければならない.

領収書

弱視の利用者のために, 領収書は12ポイント以上のサンセリフ書体(原文はsans serif:欧文書体の一つでゴチック体とほぼ同義)の活字で大文字と小文字を交ぜて印刷しなければならない. スペースに余裕があれば, 16ポイント活字が望ましい.

図柄が目立たない地紋の非光沢紙上に良好なコントラストで印刷することが重要である.印刷機のインクリボンは定期的に交換しないと,しばしば, 領収書の印字品質が悪いという良く聞く苦情の原因となる.

〔右欄下の領収書の内容〕
 |       領収書         |
 | お支払金額 ¥6,900.   |
 | 取扱日 98年8月27日  |
 |                   |
 | お支払後の残高 ¥298,000. |
 |                   |
 | 取扱機番 L227C173  |
 | ご利用ありがとうございました.   |
 16ポイント活字の使用例をここに示す.





Kenji Horiuchi